2.団体交渉ルール

団体交渉ルール

団体交渉の当事者

Q2-1.労組法上の「使用者」とは、どのようなものを指しますか。

 労組法上の「使用者」とは、労働契約関係ないしはそれに近似ないし隣接した関係を基盤として成立する団体的労使関係の一方当事者をいうとされています。

 すなわち、必ずしも労働契約上の雇用主を意味するのではなく、判例上、「労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合」には、その限りにおいて、労組法上の「使用者」に当たるとされています(朝日放送事件:最三小判平7.2.28民衆49巻2号559頁)。

 これまで使用者性が争われた事例として、以下のようなものがあります。

 ・まだ労働契約を締結していない者との関係における当該企業

 ・既に労働契約が終了した者との関係における当該企業

 ・請負先従業員との関係における発注企業

 ・派遣元従業員との関係における派遣先企業

 ・子会社従業員との関係における親会社

 ・被吸収会社従業員との関係における吸収会社

 ・解散した旧会社従業員との関係における新設会社

Q2-2.合同労組から、解雇した元従業員に関し、不当解雇だと主張の上、団体交渉を求められています。元従業員に関しても団体交渉に応じる義務がありますか。

労組法上の労働者A.
労働組合法上の労働者は、賃金や給料などを得て生活する職業にある者のことを指します。失業者や退職した元従業員も、「労働者」に含まれます。
そのため、使用者は、労働者を解雇した後であっても、その解雇の有効性につき争っている場合、団体交渉に応ずる義務があります。
実務対応解雇によって退職しているので、既に当社との関係はないと考え、団体交渉に応じない場合、団交拒否による不当労働行為に該当するリスクがあります。
もっとも、上記の場合に当てはまるか否かが微妙なケースもあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

Q2-3.労働者の死亡後、相続人の意向に基づき、当該労働者を労働組合に事後的に加入させる手続が行われていた場合、使用者は、当該労働組合からの団体交渉に応じる義務がありますか。

【回答】

団体交渉に応じる義務はないと考えられます。

【解説】

使用者は、正当な理由がなく、労働組合(=「使用者が雇用する労働者の代表者」)からの団体交渉を拒むことはできません。

使用者がこれに違反した場合、労働組合法7条2号の不当労働行為に該当します。例えば、在職中から労働者が労働組合に加入している場合、使用者は、当該労働組合からの団体交渉の申入れを拒むことができません(ただし、団体交渉の議題によっては拒むことができる場合もあります。)。

もっとも、労働者の死亡後に、相続人の意向に基づき、当該労働者を労働組合に事後的に加入させる手続が行われていた場合、使用者は当該労働組合からの団体交渉の申入れに対して、応じる義務があるのかが問題となります。

この点に関し、令和5年10月23日、群馬県労働委員会は、労働組合からの救済申立てを棄却する命令を出しました(要旨は以下のとおりです。)。

群馬県労働委員会の判断の要旨
団体交渉は、使用者とその雇用する労働者の属する労働組合との間で行われるものである。また、労働組合法第7条2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」とは、原則として、現に使用者に雇用されている労働者の代表者を意味する。そして、Aは、生前、X労働組合に加入したことをY社に明らかにしていないこと、Y社従業員の中にX労働組合の組合員が存在しないこと等からすると、X労働組合は、「使用者が雇用する労働者の代表者」には該当せず、また、本件団交の申入れ時点において、Y社がX労働組合に対して、AがX労働組合の組合員であったことの確認を求めたのは合理的な対応であったといえる。以上から、X労働組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」に当たらず、また、Y社が団体交渉を拒んだことには正当な理由があったといえるので、Y社による本件団交の拒否は、不当労働行為には該当しない。

本件では、Aの死亡後に、AをX労働組合に事後的に加入させる手続が行われていたのであり、X労働組合による本件団交の申入れの時点で、AとY社との間に、Aによる労務供給関係が存在している(または存在していると同視できる)とはいえません。

そのため、群馬県労働委員会は、Y社がAを「雇用する」関係にあるとはいえないため、X労働組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」に当たらないと判断したと考えられます。

なお、実務的には次の問題があります。

すなわち、「使用者が雇用する労働者」という文言からは、現に雇用されている労働者の代表者のみが団体交渉を行うことができ、既に解雇や雇止めをされた者(以下、「被解雇者等」といいます。)が属する労働組合からの団体交渉の申入れを拒否できるようにも思えます。

しかし、労働組合法7条2号にいう「雇用する」とは、労働組合法上の「労働者」(労働組合法3条)としての労務供給関係が特定の企業との間で存在していること(または、存在していると同視できること)を指すとされており、解雇や賃金等に関する争いが継続している場合には、労働関係は終了していないものと解されています。

そのため、実務上は、被解雇者等が属している労働組合からの団体交渉の申入れについては、原則として拒否できないと考えられます。

Q2-4.業務委託契約を締結している者が合同労組に加入し、団体交渉を申し込んできました。雇用契約ではないので、団体交渉に応じる必要はないという理解で良いですか。

労組法上の労働者の判断基準A.
業務委託契約を締結していたとしても、その者が、労組法上の「労働者」に当たると判断され、かつ、団体交渉を拒否する正当な理由がないときは、団体交渉を拒否できません(労働組合法7条2号)。
労組法上の労働者性の判断方法として、最高裁判所は、
①事業組織への組込み、
②契約内容の一方的・定型的決定、
③報酬の労務対価性、
④業務依頼の諾否の自由、
⑤業務遂行への指揮監督・時間的場所的拘束
⑥事業者性の実態の有無・程度
の諸要素を総合して判断しています。
実務対応労組法上の労働者性は、上記のとおり総合判断のため、形式的に雇用契約ではなかったとしても、その実態を考慮する必要があります。
そのため、実務上、労組法上の労働者に該当するか(団体交渉に応じるべきか)につき、難しい判断が求められます。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-5.企業内組合とは別に、外部の労働組合(合同労組)から、当社の労働者が加入したとのことで、団体交渉の申入れがありました。これに応じなければなりませんか。

複数組合主義A.
企業内組合があったとしても、労組法上の労働組合(Q1-1参照)に該当する限り、正当な理由なく、外部の労働組合(合同労組)からの団体交渉申入れを、拒否することはできません。
これは、日本では、排他的交渉代表制ではなく、「複数組合主義」「複数組合交渉代表制」を採用していることによります。
なお、排他的交渉代表制とは、限定的な労働組合のみが交渉権を取得し、しかもその組合がその交渉単位の全被用者のために排他的な交渉権を取得する制度であり、米国がこれを採用しているとされています。
実務対応実務上、どの従業員が当該労働組合に加入したのかが不明確な場合があり、この場合、どのように会社として対応するかが問題になります。
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団体交渉の日時
団体交渉の時間
団体交渉の場所
団体交渉の出席者(会社側)
団体交渉の出席者(労働組合側)
団体交渉の人数
団体交渉の議題

Q2-6.誠実交渉義務とは、 どのようなものですか。

誠実交渉義務A.
使用者には、団体交渉をするにあたり、組合と誠実に交渉する義務(以下、「誠実交渉義務」と言います。)があります。
誠実交渉義務について、カール・ツアイス事件(東京地判平成元年9月22日労判548号64頁)では、「使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務がある」と、判示しています。
要するに、使用者には、合意を求める組合の努力に対しては、そのような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるとされています。
もっとも、使用者には、組合の主張に合意したり、組合の主張に対する譲歩をしたりする義務まではありません。
実務対応誠実交渉義務の内容は、交渉の過程や労働組合の要求の内容によっても異なりますので、使用者は、具体的な交渉状況等を考慮しながら、交渉を進めていく必要があります。
もっとも、会社として、どのような対応が誠実交渉義務に反するかどうか微妙なケースがあります。
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Q2-7.不当労働行為とは何ですか。

不当労働行為A.
労働組合法は、使用者に対し不当労働行為を禁止しています(労働組合法7条)。
不当労働行為は、以下の3つの基本的な類型に分けられます。
①不利益取扱い
➡例:労働者が組合員であることを理由に不利益な配置転換、解雇をすること
②団体交渉拒否
➡例:組合からの団体交渉の要求に対し、使用者がこれに応じないこと)
③支配介入
➡例:組合に対する否定的な言動
黄犬契約は上記①に、経費援助は上記③に属する類型です。
さらに、報復的不利益取扱い(例:労働者が労働委員会に対し不当労働行為の申立てをしたこと)は、その内容上付加的な特別の類型としての位置付けを有します。
これらの規定に反した場合、労働委員会における救済申立手続を経て、1年以下の禁錮や100万円以下の罰金に処せられる場合があるので、注意が必要です(労働組合法27条1項、28条)。
実務対応使用者は、団体交渉を行う際、不当労働行為に該当しないよう常に注意しながら、進めていく必要があります。
もっとも、事案によっては、どのような行為が不当労働行為に該当するかが微妙なケースがあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-8.不当労働行為の救済命令等に従わなかった場合、どのような罰則がありますか。

不当労働行為の救済命令等に従わなかった場合A.
不当労働行為(労働組合法7条各号)に該当する事実がある場合、組合(及び労働者)が申立人となり、労働委員会に対し、救済の申立てをすることがあります。
労働委員会による審査の結果、労働委員会が、使用者による不当労働行為を認定した場合、申立ての全部または一部について救済命令を発します(同法27条1項前段、27条の12第1項)。
使用者が、確定した救済命令に違反した場合には、50万円(当該命令が作為を命ずるものであるときは、その命令の日の翌日から起算して不履行の日数が5日を超える場合にはその超える日数1日につき10万円の割合で算定した金額を加えた金額)以下の過料に処せられます(同法32条)。
また、救済命令の全部または一部が確定判決によって支持された場合、その違反があったときは、その行為をした者は、1年以下の禁錮若しくは100万円以下の罰金に処せられ、または併科されます(同法28条)。なお、この場合に処罰を受ける者は違反の「行為をした者」(現実の責任者)であって、「使用者」ではありませんので、注意が必要です。
実務対応実務では、救済命令が発せられた場合、これを遵守しないことによるリスクだけに留まらず、労働組合がこの内容を外部に情宣活動をすることによる、レピュテーションリスクも否定できません。
そのため、使用者は、想定されるリスクを可能な限り検討した上で、方針を決定する必要がありますが、展開予測が難しいケースがあります。
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Q2-9.義務的団交事項とは何ですか。義務的団交事項についての団体交渉を拒否すると、どのように判断されるリスクがありますか。

義務的団交事項A.
義務的団交事項とは、労働組合法上、使用者が団体交渉を行うことを義務付けられている事項をいいます。
義務的団交事項か否かにつき、裁判例では、「団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」といえるかどうかによって判断されています(エス・ウント・エー事件、東京地判平成9年10月29日)。
義務的団交事項について、使用者は労働組合からの団体交渉を正当な理由なく拒否することはできず、これに反した場合、不当労働行為(労働組合法7条2号)に該当するリスクがあります。
実務対応実務では、一見して義務的団交事項に該当するかの判断が微妙なケースがあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-10.労働条件その他の待遇(例:報酬、労働環境の改善の要求)は、義務的団交事項に該当し、団体交渉を義務付けられますか。

義務的団交事項A.
義務的団交事項か否かにつき、裁判例では、「団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」かどうかによって判断されています(エス・ウント・エー事件、東京地判平成9年10月29日)。
例えば、労働の報酬や退職金、労働時間、安全性、災害補償、教育訓練は、「労働条件その他の待遇」に含まれます。
したがって、上記の例に関する事項につき、義務的団交事項に該当し、使用者は、団体交渉を義務付けられます。
また、労働の内容・方法・環境なども「労働条件その他の待遇」として含まれる場合があります。
ただし、労働の内容・方法・環境などについて、日常的で軽微な事柄であって、使用者が、労務を指揮できる範囲の事柄については、義務的団交事項ではなく、団体交渉を義務付けられない、と考えられています。
実務対応実務では、労働組合からの要求事項につき、義務的団交事項に該当するかの判断が微妙なケースがあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-11.経営・生産に関する事項(例:工場事務所の移転、事業譲渡)は、義務的団交事項に該当し、団体交渉を義務付けられますか。

義務的団交事項A.
義務的団交事項か否かにつき、裁判例では、「団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」といえるかどうかによって判断されています(エス・ウント・エー事件、東京地判平成9年10月29日)。

例えば、新機械の導入、設備の更新、清算の方法、工場事務所の移転、経営者の人事、事業譲渡などの事項は、通常、経営・生産に関する事項であり、「労働条件その他の待遇」や「団体的労使関係の運営」に関するものとは言えないため、義務的団交事項に該当しません。

しかし、経営・生産に関する事項であっても、労働条件や労働者の雇用に関係ある場合には、「労働条件その他の待遇」に関する事項ということができ、義務的団交事項に該当し、使用者は団体交渉を義務付けられます。

ただし、「軍需品の受注をやめよ」「公害をもたらす製造工程反対」などといった、社会的使命感に基づくような要求は、「労働条件その他の待遇」に関する事項と言えず、義務的団交事項ではなく、使用者は団体交渉を義務付けられないと、一般的に、考えられています。
実務対応実務では、労働組合からの要求事項につき、義務的団交事項に該当するかの判断が微妙なケースがあります。
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Q2-12.個別の人事・権利の主張(例:労働者の配転、解雇)は、義務的団交事項に該当し、団体交渉を義務付けられますか。

義務的団交事項A.
義務的団交事項か否かにつき、裁判例では、「団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」といえるかどうかによって判断されています(エス・ウント・エー事件、東京地判平成9年10月29日)。
例えば、労働者の配転、解雇、労働者個人の権利主張などの事項は、「労働者の労働条件その他の待遇」に含まれることから、義務的団交事項に該当します。
したがって、使用者は、団体交渉を義務付けられます。
実務対応実務では、労働組合からの要求事項につき、義務的団交事項に該当するかの判断が微妙なケースがあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-13.組合と使用者や会社との関係に関する事項(例:ユニオンショップ協定の締結、組合活動に関する便宜供与)は、義務的団交事項に該当し、団体交渉を義務付けられますか。

義務的団交事項A
義務的団交事項か否かにつき、裁判例では、「団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」といえるかどうかによって判断されています(エス・ウント・エー事件、東京地判平成9年10月29日)。
例えば、ユニオン・ショップ協定の締結、組合活動に関する便宜供与、ルールの改変、団体交渉の手続などに関する事項は、「当該団体的労使関係の運営に関する事項」に含まれます。
したがって、上記の例に関する事項につき、義務的団交事項に該当し、使用者は団体交渉を義務付けられています。
実務対応実務では、労働組合からの要求事項につき、義務的団交事項に該当するかの判断が微妙なケースがあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい

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Q2-14.義務的団交事項に該当するとしても、裁判所や労働委員会で係争中であれば、団体交渉を拒否することができますか。

裁判係属中の場合の団体交渉義務的団交事項は、一般には、「組合員の労働条件や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」と定義されています 。なお、ある事項が裁判所や労働委員会で係争中であることは、団交拒否の理由にはならないとされていますので、注意が必要です。
実務対応使用者として、どのように団体交渉並びに裁判及び労働委員会での係争を進めていくかは、労働組合からの要求内容、事実関係及び今後の労働組合が講じる措置の予測等を踏まえ、決めていく必要があります。
もっとも、使用者として、状況を客観的に分析することが難しい場合があります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-15.団体交渉の手続を決める際のルール(法規制)はありますか。

団体交渉の手続を決める際のルール(法規制)団体交渉の手続(交渉の日時・場所、出席人数など)について、特別な法的規制はありませんので、使用者側と労働者側の話し合いにより、手続に関する合意をすることになります。
ただし、当事者間の交渉等で自主的に決定され、決定された手続きに関し、使用者はそのルールの変更を主張して団交を拒否することは原則としてできませんので、注意する必要があります。
実務対応特にコロナ禍以降においては、団体交渉の方法として、オンラインによる団体交渉を実施することも増えています。この場合も労働組合と実施方法を合意することになります。
もっとも、どのように労働組合と協議をすればよいか分からないことがあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-16.不当労働行為の主体である「使用者」とは誰の行為を指しますか。

不当労働行為の主体不当労働行為の主体は、「使用者」です。
個人企業における企業主本人の行為、法人企業における理事、取締役等の行為などについては、一般に使用者の行為として考えられます。
その他、労働組合法第2条但書第1号に規定されている使用者の利益を代表する者の行為についても、その地位ないし立場においてなされるものに関しては、使用者は、一般に責任を負うべきものと解されています 。例えば、会社の人事・労務に一定の影響力を持つ部長や課長が、その地位を利用して行った行為は、通常は使用者の行為とみなされます。さらには、そうした立場に近い地位にある者が、使用者の意を体して脱退工作などを行ったときには、その者が組合員であったとしても、それを組合員としての活動とみるべき特段の事情がない限り、使用者の不当労働行為と判断されます。これに対し、一般労働者の行為は、使用者の指示または要請にもとづいて行われた場合にのみ、使用者の不当労働行為となります 。
なお、実務上、使用者である会社が解散し、別会社が設立されることがあります。このような場合、旧会社と別会社が実質上同一と判断されれば、別会社が「使用者」として旧会社の地位を承継することになりますので、注意が必要です。
実務対応使用者は合同労組に加入した組合員に対して、他の従業員と同様に、業務指示等を行うことが基本ですが、組合員によっては組合員であることを理由に不利益な取扱いを受けていると主張することがあります。
そのため、団体交渉以外の場において、当該組合員に対して、どのように業務指示等をすべきかにつき、難しい対応が必要となることがあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-17.不利益取扱いの内容を教えてください。

不利益取扱い不利益取扱い(労組法7条1号)とは、組合所属や組合活動を理由としてなされ、直接には個々の労働者に何らかの不利益を及ぼす行為を意味します。
不利益取扱いの不当労働行為が成立するためには次の3要件を充足することが必要です。

①労働者が組合の組合員であること、組合に加入しもしくはこれを結成しようとしたこと、もしくは組合の正当な行為をしたこと
②そのことの故をもって
③当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いがなされたこと

ⅰ 労働組合の組合員、労働組合への加入・結成、労働組合の正当な行為
「組合員であること」を理由とする不利益な取扱いの中には、組合の役員であることを理由とする不利益な取扱いも含みます。
また、組合に「加入」しようとしたこととは、すでにある組合に加入したいとの希望を示したり、加入のための相談や準備を行ったことを指すと考えられています。
最後に、「組合の正当な行為」であるか否かは、組合活動などが不利益な取扱いから保護されるべき行為であるかという観点から判断されます。言い換えれば、民事免責や刑事免責において問題となる正当性とは異なると考えられています。

ⅱ 不当労働行為意思
不利益取扱いの不当労働行為が成立するためには、使用者の不当労働行為意思(「故をもって」)が必要です。
実務上問題となるのは、組合員が問題行動をとった場合の使用者の対応です。
組合員に問題がある場合であっても、使用者に反組合的な意図があり、それが決定的な動機であると決定されれば、不当労働行為となりますので、留意する必要があります。
なお、不利益取扱が第三者による要請・圧力であったとしても、不当労働行為意思を充たすと考えられています。

ⅲ 不利益な取扱い
「不利益な取扱い」の例としては、解雇、賃金差別、配転、出向などがこれに該当します。
実務対応使用者として、不当労働行為に該当しないように団体交渉を進めていくことは、非常に重要です。
もっとも、どの行為が不当労働行為に該当するかは、過去の裁判例等に照らして考えていく必要があるため、一概に判断できないこともあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-18.団体交渉拒否の内容を教えてください。

団体交渉拒否団交拒否の不当労働行為(労組法7条2号)が成立するためには、次の4要件を充足する必要があります。

①使用者が
②その雇用する労働者の代表者による団交申入れを
③正当な理由なしに
④拒むこと

ⅰ 「使用者」
誠実交渉義務を負う使用者は、原則として、労働契約上の使用者を意味です。
もっとも、裁判例上の使用者は、これに限られず、実態に即して柔軟に判断されています。この点については、後述します。

ⅱ 「雇用する労働者の代表者」
ここでいう「労働者」は、労働基準法・労働契約法のそれよりも広く、労働契約とはいえないような労務供給関係をも含むと考えられています。この点についても後述します。

ⅲ 「正当な理由」なし
使用者は、「正当な理由」があれば、組合の団体交渉要求を拒否することはできます。例えば義務的団交事項ではないことは、団交拒否の「正当な理由」となります。

ⅳ 「拒むこと」
ここでいう「拒むこと」には、団交に応じないことのみならず、団交に応じるものの誠実に交渉しないことも含みます。
また、複数の組合が併存する場合に、団体交渉において一方組合を差別的に扱うことも、団体交渉拒否と考えられています。
実務対応使用者として、不当労働行為に該当しないように団体交渉を進めていくことは、非常に重要です。
もっとも、どの行為が不当労働行為に該当するかは、過去の裁判例等に照らして考えていく必要があるため、一概に判断できないこともあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-19.支配介入の内容を教えてください。

支配介入使用者が、組合の結成・運営を支配し、または、それに介入すること(労組法7条3号)は禁止されています。また、組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること(経費の援助)も、一定の場合を除き、禁止されています。
支配介入の不当労働行為が成立するためには、次の要件を充足する必要があります。

①組合の結成・運営に
②支配または介入したこと

ⅰ 労働組合の「結成」・「運営」
労働組合法7条3号は、憲法28条が保障する集団的権利を労働者や組合が行使することを広く保護する趣旨と考えられていますので、組合の「結成」だけでなく、「結成のための準備行為(他の従業員への働きかけ等)」が含まれますし、また、「運営」だけでなく、「運営に付随する活動(組合員による日常の組合活動)」も含まれます。
ⅱ 「支配」・「介入」
「支配」・「介入」とは、使用者が組合の組織や運営につき主導的立場に立って、組合の意思を左右し御用化してしまうこと、また、その程度には至らないが組合の組織や運営に干渉し影響力を及ぼすことと考えられています。
例えば、組合活動の妨害、脱退工作、組合員の解雇、降格などがこれに該当します。
なお、使用者の単なる発言や意見表明であっても、組合員に対して威嚇的な効果をもつような場合には、支配介入にあたる場合がありますので注意が必要です。
ⅲ 支配介入意思の要否
不利益取扱い(労組法7条1号)と異なり、支配介入(労組法7条3号)については、条文上、「故をもって」という表現がありません。そのため、支配介入の場合は、支配介入をしようとする意欲や認識といった不当労働行為意思は要件として必要ないと解されています 。ただ、使用者の認識とは全く無関係に行為の結果のみから不当労働行為が成立すると、使用者の行為を過剰に制限することになるため、広い意味で反組合的意思をもって行為がなされたことは必要と考えられます(山岡内燃機事件(最二小判昭和29年5月28日))。
実務対応多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-20.報復的不利益取扱いの内容を教えてください。

報復的不利益取扱い報復的不利益取扱い(労組法7条4号)とは、使用者が、労働者が①労働委員会に対して不当労働行為の申立てをしたこと、②中央労働員会に再審査の申立てをしたこと、または、③労働委員会の不当労働行為の審査手続き(調査・審問・和解)もしくは労働争議の調整手続き(あっせん・調停・仲裁)において証拠の提示もしくは発言をしたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをすることを意味します。
「不利益な取扱い」は、労働組合法7条1号にいう「不利益な取扱い」と同じです。
報復的不利益取扱いは、公正な労使関係だけでなく、労働委員会の公正な運営をも妨げることものであることから、1号とは別に4号という独自の規定が設けられました。
実務対応使用者として、不当労働行為に該当しないように団体交渉を進めていくことは、非常に重要です。
もっとも、どの行為が不当労働行為に該当するかは、過去の裁判例等に照らして考えていく必要があるため、一概に判断できないこともあります。
この場合は、多湖・岩田・田村法律事務所に、遠慮なく、ご相談下さい。

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Q2-21.企業は、既に労働契約が終了した者との関係で、「使用者」に該当しますか。

 「使用者」に該当する場合があります。
 元従業員が属する労働組合が、企業による解雇または雇止めの撤回や、退職条件または在職期間中の未払い賃金等に関する団体交渉を申入れた場合、企業は、原則として、「使用者」に該当します。
 もっとも、解雇が交渉の対象とされることなく長年月が経過したことにより、当該労働者が「使用者が雇用する労働者」に当たらないと判断された事例もあります(例えば、東洋鋼板事件:中労委昭53.11.15命令集64集777頁は解雇後約10年経過してからの団交が申し入れられた事案でした)。他方、解雇から4年以上が経過した時点での交渉申入れについて、具体的事情を検討した上で、使用者としての団交応諾義務を認めた事例(日本鋼管鶴見造船所事件:最三小判昭61.7.15労判484号21頁)や、石綿被害という特殊事情を踏まえ、退職後6年~16年後の団交申入れにつき、団交応諾義務を認めた事例(住友ゴム工業事件:最一小決平23.11.10)があります。

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Q2-22.労働契約終了後の(元)労働者に関するケースについて、参考裁判例を教えてください(その1)。

参考裁判例◇日本鋼管鶴見造船所事件(東京高判昭57・10・7労判406号69頁)
《概要》
従業員の解雇から約6年10か月後に、組合が団体交渉の申入れをし、会社がこれを拒否したことについて不当労働行為救済命令がなされ、会社がこの取り消しを求めた。
裁判所は、会社は団交に応じる義務があったとして、会社の控訴を棄却した。
《判旨》
「本件の場合…両名は解雇の効力を争って裁判所に労働契約上の地位の存在することの確認請求の訴を提起していたものであって、解雇後漫然とこれを放置していたものではなく、かつ、参加人らは、組合を結成し、又は、組合は加入してから直ちに右申入れをしていることが認められる。」「使用者側と労働者側との労働条件の意見の不一致について協議・決定するため団体交渉がなされるが、解雇に関する問題は労働者にとって最終的で最も重大な事項であるので、その解決方法として団体交渉ばかりでなく、苦情処理、労働委員会への提訴、裁判所への訴訟の提起等が考えられ、それが、それぞれ目的・機能を異にするものであるから、労働者がそのあらゆる手段を利用しようとするのは必然であって、その一を選択することによって他を選択し得なくなるものではない。
実務対応裁判例の判示内容が本件事案に同様にあてはまるかは、裁判例と本件事案の異同を慎重に検討する必要があります。
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Q2-23.労働契約終了後の(元)労働者に関するケースについて、参考裁判例を教えてください(その2)。

◇ニチアス事件(奈良労委平20・7・24)

《概要》

会社が、労働組合から、①会社の各工場及び関連企業における労働者と周辺地域住民のアスベスト被害の実態を明らかにすること、②退職した労働者のアスベスト被害に対する健康対策及び補償制度を明らかにすること、③労災保険給付を受けられないじん肺被害者への補償制度を作ること等を議題とする団体交渉の申入れがあったがそれに応じなかった。そのため、労働組合が、団交拒否の不当労働行為にあたるとして、労働委員会に申立てを行った。

奈良県労働委員会は、退職から25年から49年経過した従業員について、「特段の事情」のない限り、労働組合法7条2号の「労働者」にはあたらないとしたものの、従業員が在職中に潜伏期間の長い石綿被害を受けていたという事情から「特段の事情」の存在を認め、会社に対し、団体交渉応諾を命じ、その他の申立てを棄却した。

《要旨》

「労働組合法第7条第2号…にいう「雇用する労働者」とは、原則として、現に使用者との間に労働関係が存在する労働者をさす。しかし、解雇されもしくは退職した労働者も、解雇・退職そのものをめぐって使用者と争っている場合や、在職中の労働関係上の問題がまだ解決していないとして使用者と争っている場合には、なお「雇用する労働者」に該当する場合がありうるというべきである。」「労働者が退職後長期間経過した後に、労働組合を結成し、もしくはそれに加入して、その労働組合が、労働者がこれまで争わなかった労働関係存続中の問題について団体交渉を申し入れた場合、それを認めるべき特段の事情のない限り、当該労働者はもはや「雇用する労働者」とはいえず、労働組合は「雇用する労働者の代表者」とはいえないと解される。」「本件においては、組合員らのうち、会社の元授業員は、退職の後、短い者で25ないし26年、長い者は49年以上が経過している。また会社の下請会社の元従業員は、退職後30年以上経過している。…したがって、特段の事情のない限り、組合員らは「雇用する労働者」とはいえず、使用者は本件団体交渉に応じる義務がないこととなる。…しかしながら、特段の事情が存在する場合、すなわち、労働関係上の紛争が特殊な性格をもっているために、労働者が在職中にその問題について争わないままに退職し、長期間経過した後に初めてその問題を争うことに正当な理由があり、またその問題を労働組合の団体交渉を通じて解決しようとすることに合理的な根拠がある場合には、労働者はなお「雇用する労働者」に該当することがありうるというべきである。」

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Q2-24.労働契約終了後の(元)労働者に関するケースについて、参考となる裁判例を教えてください(その3)。

参考裁判例◇愛知県レ・パ事件(名古屋地判昭46・5・26)
《概要》
原告らが、会社から解雇処分を受けた後、愛知県地方労働委員会に対し、その取消しを求める不当労働行為救済申立てを行ったところ、申立てを認容する初審の救済命令を受けた。しかし、これに対する再審査申立事件において、中央労働委員会は、初審命令を取り消し、原告らの申立てを棄却する旨の命令を発した。原告らは、命令書の交付を受けながら、その取消しを求める行政訴訟を提起せず、そのため、命令は確定するに至り、その約10年間後に、解雇無効を主張し訴訟を提起した。
裁判所は、信義則違反を理由に、請求を棄却した。
《判旨》
「原告らは、本件処分後退職手当等を異議なく受領したうえ、前記中央労働委員会の棄却命令を受けてから後一〇年間という長期に亘り本件処分を争う法律上事実上の手段を全くとらなかつたのであるから被告において、原告らが労働関係の消滅を争わないものと確信し、その前提のもとに前記のような機構上の変動のみならず人事面の変動を形成し活動をつづけてきたことは容易に推認することができる。」「右のように一切の事実関係及び法律関係が形成され、一〇年という長年月が経過した後において、突如として本件処分の無効を主張するが如きは、たとえ、本件処分に原告ら主張のような瑕疵が存したとしても、それは労働関係上の権利の行使として恣意的にすぎるとのそしりを免れず信義誠実の原則に反するものというべきであるから、原告らは、本訴において本件処分の無効を主張することは許されないと解するのが相当である。」
実務対応裁判例の判示内容が本件事案に同様にあてはまるかは、裁判例と本件事案の異同を慎重に検討する必要があります。
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Q2-25.労働契約終了後の(元)労働者に関するケースについて、参考となる裁判例を教えてください(その4)。

参考裁判例◇全電通長崎県支部事件(長崎地判昭60・2・27)
《概要》
解雇無効を理由とする雇用関係存在確認の訴えが、解雇から約12年8か月、労働組合が解雇撤回闘争を完全に終結させてから約5年4か月が経過した時点で提起された。
裁判所は、現実に職場に復帰する意思がないのに解雇の無効を主張することは信義則に違反するとして、信義則違反を理由に、請求を棄却した。
《要旨》
「特段の合理的理由もないままに本件解雇から一二年八月余、全電通がその撤回闘争を完全に終結させてからでも五年四月余が経過し、被告において原告との労働関係が完全に終了したものとして企業秩序が形成された後に、現実に現場に復帰する意思もないのに、原告が本訴において本件解雇の無効を主張し、被告において新たに形成した企業秩序を一挙に覆そうとすることは、仮に原告主張のような瑕疵があるとしても、紛争の早期解決による法的安定が強く要請される労働関係上の権利の行使としては恣意的にすぎ、被告の信頼を裏切るもので、信義則に違反するものといわなければならない。」
裁判例の判示内容が本件事案に同様にあてはまるかは、裁判例と本件事案の異同を慎重に検討する必要があります。
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Q2-26.企業は、労働契約が成立する前の者との関係で、「使用者」に該当しますか。

原則として、労組法7条の「使用者」とは雇用主のことを指しますが、例外的に、労働契約が成立する前であっても、近い将来において労働契約関係が成立する可能性が、現実的かつ具体的に存在する場合には、「使用者」に該当する場合があります。
例えば、「使用者」該当性を認めたものとして、
①これまで、何回か雇用してきた季節労働者の再採用に関する「当該企業」(万座硫黄事件:中労委昭27.10.15命令集7集181頁)、
②被吸収会社従業員との関係における「吸収会社」(日産自動車事件:東京地労委昭41.7.26命令集34=35集365頁)、
③事業譲渡企業で当該事業に従事してきた労働者との関係における「事業譲受企業」(盛岡観山荘病院事件:中労委平20.2.20命令集140集813頁)、
④派遣労働者との関係における当該派遣労働者を直接雇用することを決定した「派遣先企業」(クボタ事件:中労委平21.9.2命令集145集844頁、東京地判平23.3.17労判1034号87頁、東京高判平23.12.21)
等があります。

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Q2-27.労働契約前の労働者に関するケースについて、参考となる裁判例を教えてください(その1)。

参考裁判例◇クボタ事件(東京地判平23・3・17労働判例1034号87頁)
《概要》
原告である会社が、1回目の団体交渉開催以降、派遣労働者の直接雇用化実施までの間に団体交渉に応じなかったことは、労働組合法7条2項の不当労働行為であるとして、団体交渉拒否に係る文書手交を命じる旨の初審命令がなされた。会社は再審査申立てをしたが、申立ても却下され、初審命令の一部を訂正する本件命令が発せられた。そのため、原告がその取消しを求めて訴えを提起した。
裁判所は、原告の一連の対応を全体的に観察すれば、原告は、直接雇用化後における雇用期間等の労働条件について、直接雇用化実施前に補助参加人と協議する姿勢を有していなかったものといわざるを得ず、原告の行為は、正当な理由なく、本件団体交渉申入れに係る団体交渉を拒んだものとして、不当労働行為に該当するとし、請求を棄却した。
《判旨》
「雇用主以外の者であっても,当該労働者との間に,近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者もまた,これに該当するものと解すべきである。」
実務対応裁判例の判示内容が本件事案に同様にあてはまるかは、裁判例と本件事案の異同を慎重に検討する必要があります。
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Q2-28.労働契約前の労働者に関するケースについて、参考となる裁判例を教えてください(その2)。

参考裁判例◇ヤンマー事件(滋賀労委平22・11・10)
《概要》
会社が、①労働組合から申し入れのあった「期間従業員就業規則」及び「誓約書」に関する事項を議題とする本件団交に応じなかったこと、②工場で労務を提供していた派遣労働者である組合員に対し、会社に直接雇い入れる条件として、「誓約書」の提出を求めたこと、これらがそれぞれ労働組合法7条2号・3号の不当労働行為にあたるとして、不当労働行為の申立てがなされた。
滋賀県労働委員会が、①の、会社が本件団交に応じなかったことは労働組合法7条2号の不当労働行為にあたるとして、会社に対し、文書手交を命じ、その他の申立てを棄却したところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てた。
《要旨》
「雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者は雇用主と同視できる関係にあり、同条にいう「使用者」に該当すると解するのが相当である。」
実務対応裁判例の判示内容が本件事案に同様にあてはまるかは、裁判例と本件事案の異同を慎重に検討する必要があります。
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Q2-29.下請会社の労働者に関するケースについて、教えてください。

下請会社の労働者労働契約上の当事者でなくても、実際上それに類似した地位にある企業も、「使用者」と認められることがあります。例えば、判例においては、下請企業の労働者を指揮命令している放送局について、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて」労働組合法第7条の使用者にあたるとされています(朝日放送事件(最三小平成7年2月28日)) 。
これにより、親会社が株式所有、役員派遣、下請関係等によって子会社の経営を支配下に置き、その従業員について現実かつ具体的な支配力を有している場合には、労働者との間の労働契約関係は、親会社ではなく子会社と労働者との間にあるものの、親会社は子会社従業員の労働条件について、子会社とともに、団体交渉上の使用者としての地位にあり、団体交渉や支配介入の禁止を命じられうることになります。
実務対応合同労組対策は、対応を誤ると会社に大きな損害を与えかねませんので、対応方針は慎重に検討する必要があります。
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Q2-30.下請会社の労働者に関するケースについて、参考となる裁判例を教えてください(その1)。

参考裁判例◇朝日放送事件(最判平7・2・28労判668号11頁)
《概要》
放送会社である原告(被上告人)が、使用者でないことを理由に番組制作業務の請負契約を締結している下請会社の従業員で組織された労働組合との団体交渉を拒否したところ、中央労働委員会は、会社の団交拒否は不当労働行為にあたるとして救済命令を発した。そのため、会社はその取消しを求めた。
最高裁は、会社が労働組合法7条の「使用者」にあたるとし、勤務時間の割り振り等に関する限り、正当な理由がなければ労働組合との団体交渉を拒否することができないとして、原審に差し戻した。
《判旨》
「一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」に当たる」
実務対応裁判例の判示内容が本件事案に同様にあてはまるかは、裁判例と本件事案の異同を慎重に検討する必要があります。
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Q2-31.業務委託契約者に関するケースについて、教えてください。

業務委託契約者使用者は、業務委託契約者からの団交要求に応じなければならない場合がありますので、注意が必要です。業務委託契約者であっても、一定の要件を充足する場合には、労働組合法上の労働者に該当するからです。
実務対応合同労組対策は、対応を誤ると会社に大きな損害を与えかねませんので、対応方針は慎重に検討する必要があります。
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Q2-32.業務委託契約者に関するケースについて、参考裁判例を教えてください(その1)。

◇INAXメンテナンス事件(最判平23・4・12労判1026号27頁)

《概要》

住宅設備機器の修理補修等を業とする会社である原告(被上告人)が、会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する者(カスタマーエンジニア(CE))が加入した労働組合(上告補助参加人)らから団体交渉の申入れを受け、これを拒絶したことにつき、労働委員会から不当労働行為救済命令を発せられたため、その取消しを求めた。

最高裁は、(1)会社が行う業務の大部分は、能力、実績、経験等を基準に級を毎年定める制度等の下で管理され全国の担当地域に配置された上記受託者によって担われており、その業務日及び休日も上記会社が指定していた、(2)業務委託契約の内容は会社が定めており、受託者の側で変更する余地はなかった、(3)受託者の報酬は、会社があらかじめ決定した顧客等に対する請求金額に会社が当該受託者につき決定した級ごとの一定率を乗じ、これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていた、(4)受託者は、会社から依頼を受けた業務を直ちに遂行するものとされ、承諾拒否をする割合は僅少であり、業務委託契約の存続期間は1年間で会社に異議があれば更新されないものとされていた、(5)受託者は、上記会社が指定した担当地域内においてその依頼に係る顧客先で修理補修等の業務を行い、原則として業務日の午前8時半から午後7時まで上記会社から発注連絡を受け、業務の際に上記会社の制服を着用してその名刺を携行し、業務終了時に報告書を上記会社に送付するものとされ、作業手順等が記載された各種マニュアルに基づく業務の遂行を求められていた、これらの諸事情を総合考慮すれば、CEは、被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当であるとした。

《判旨》

「被上告人の従業員のうち,被上告人の主たる事業であるCの住宅設備機器に係る修理補修業務を現実に行う可能性がある者はごく一部であって,被上告人は,主として約590名いるCEをライセンス制度やランキング制度の下で管理し,全国の担当地域に配置を割り振って日常的な修理補修等の業務に対応させていたものである上,各CEと調整しつつその業務日及び休日を指定し,日曜日及び祝日についても各CEが交替で業務を担当するよう要請していたというのであるから,CEは,被上告人の上記事業の遂行に不可欠な労働力として,その恒常的な確保のために被上告人の組織に組み入れられていたものとみるのが相当である。また,CEと被上告人との間の業務委託契約の内容は,被上告人の定めた「業務委託に関する覚書」によって規律されており,個別の修理補修等の依頼内容をCEの側で変更する余地がなかったことも明らかであるから,被上告人がCEとの間の契約内容を一方的に決定していたものというべきである。さらに,CEの報酬は,CEが被上告人による個別の業務委託に応じて修理補修等を行った場合に,被上告人が商品や修理内容に従ってあらかじめ決定した顧客等に対する請求金額に,当該CEにつき被上告人が決定した級ごとに定められた一定率を乗じ,これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていたのであるから,労務の提供の対価としての性質を有するものということができる。加えて,被上告人から修理補修等の依頼を受けた場合,CEは業務を直ちに遂行するものとされ,原則的な依頼方法である修理依頼データの送信を受けた場合にCEが承諾拒否通知を行う割合は1%弱であったというのであって,業務委託契約の存続期間は1年間で被上告人に異議があれば更新されないものとされていたこと,各CEの報酬額は当該CEにつき被上告人が毎年決定する級によって差が生じており,その担当地域も被上告人が決定していたこと等にも照らすと,たといCEが承諾拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても,各当事者の認識や契約の実際の運用においては,CEは,基本的に被上告人による個別の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったものとみるのが相当である。しかも,CEは,被上告人が指定した担当地域内において,被上告人からの依頼に係る顧客先で修理補修等の業務を行うものであり,原則として業務日の午前8時半から午後7時までは被上告人から発注連絡を受けることになっていた上,顧客先に赴いて上記の業務を行う際,Cの子会社による作業であることを示すため,被上告人の制服を着用し,その名刺を携行しており,業務終了時には業務内容等に関する所定の様式のサービス報告書を被上告人に送付するものとされていたほか,Cのブランドイメージを損ねないよう,全国的な技術水準の確保のため,修理補修等の作業手順や被上告人への報告方法に加え,CEとしての心構えや役割,接客態度等までが記載された各種のマニュアルの配布を受け,これに基づく業務の遂行を求められていたというのであるから,CEは,被上告人の指定する業務遂行方法に従い,その指揮監督の下に労務の提供を行っており,かつ,その業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたものということができる。」「以上の諸事情を総合考慮すれば,CEは,被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。」

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Q2-33.団体交渉拒否に関するケースについて、参考となる裁判例を教えてください。
Q2-33-1.事案の概要はどのようなものですか。

国立大学法人山形大学事件(最判令4年3月18日)

事案の概要は次のとおりです。

なお、以下の事実関係は、山形県労働委員会による命令(平成30年11月28日)及び山形地判令2.5.26の事実認定に基づいています。

また、以下では、国立大学法人山形大学を「本件法人」と記載し、本件法人の教職員らにより組織される労働組合を「本件労働組合」と記載します。

1.団体交渉の概要

①教職員の昇給の抑制について

①-1 平成25年 頃        :平成24年の人事院勧告に基づき、本件法人が本件労働組合に対し、平成26年1月1日から、教職員の内55歳を超える者の昇給を抑制することに関する団体交渉を申し入れた。

①-2      11月12日  :本件法人は本件労働組合に対し、就業規則改正や勧告に関する資料を提示し、上記勧告に準拠した給与削減が不可避であること等を説明した。しかし、口頭で説明したに留まり、学内財政に関する資料や、昇給抑制を実施しなかった場合の具体的な試算は示さなかった。これに対し本件労働組合は、具体的試算を資料と共に提出するよう要求した。

①-3     12月 3日   :本件法人は本件労働組合に対し、資料(以下「A」)を提示しつつ、昇給抑制を行わなかった場合の試算を説明し、昇給抑制が国からの要請であること、及び、人件費の削減の必要性について説明した。しかし、当該昇給抑制の必要性について、財務諸表を配布することはなかった。また、同月27日には、本件法人の就業規則を改正し、上記昇給抑制に係る就業規則の施行を平成26年4月1日とし、平成27年1月1日から適用することを決定した。

①-4 平成26年3月19日  :本件労働組合は本件法人に対し、昇給停止の撤回あるいは十分な激変緩和措置及び代償措置を提案するよう要求した。

①-5      3月28日   :本件法人は本件労働組合に対し、昇給停止の「実施を1年間猶予することがぎりぎりの緩和措置である。」旨の回答をした。

①-6      4月 1日    :本件法人は、改正した就業規則を施行した。

①-7      12月17日   :本件労働組合は本件法人に対し、昇給抑制の平成27年1月1日実施を見送ること、及び、あくまで昇給抑制を実施するならば、それに見合った激変緩和措置及び代償措置の提案をすることを要求した。

①-8     12月19日  :本件労働組合は本件法人に対し、昇給抑制を実施しなければ財政が困難になることの合理的な説明を求めた。また、具体的資料を基に交渉をするよう要請し、仮に昇給抑制をする場合には、他大学で行われているような代償的措置をとるように求めた。しかし、本件法人は、A以外の資料を提示せず、具体的な回答をしなかった。また、交渉の要請については、従来より、教職員の給与は人事院勧告に準拠することを基本方針としてきた旨説明し、代償的措置については「伺っておきましょう。」と述べた。

①-9      12月25日 :本件法人は本件労働組合に対し、実施の見送りや激変緩和措置及び代償措置の提案は難しい旨回答した。

①-10 平成27年1月1日 :本件法人が昇給抑制を実施した。

②教職員の給与の引下げについて

②-1 平成26年 頃         :本件法人は本件労働組合に対し、平成26年の人事院勧告に基づき、平成27年4月1日から教職員の給与を引下げること等に関する団体交渉を申し入れた。

②-2        9月11日 :上記②-1に関する団体交渉(具体的内容は不明)

②-3       10月3日  :同上

②-4       10月29日:本件法人は本件労働組合に対し、賃金引き下げに関する大学作成の資料の提示と簡単な説明を行った。

②-5         11月26日  :上記②-1に関する実質的な協議はされなかった。

②-6 平成27年  2月 9日  :本件法人は本件労働組合に対し、給与規定の改正に関する資料を提示し、説明するとともに、改正の必要性及び人事院勧告に従う必要性を説明した。また、賃金の引下げ率及び激変緩和のための経過措置を提案した。これに対し、本件労働組合は、他大学は賃金引下げ措置を取っていないことを指摘し、なぜ人事院勧告に従う必要があるのかを質問したが、本件法人は、従前から人事院勧告に準拠してきたこと、人事院勧告に準拠した給与削減は不可避であることを述べたのみであった。

②-7     2月27日  :本件法人は本件労働組合に対し、給与規程の改正に関する資料を提示し、当該改正内容に人事院勧告と基本的に異なる部分はないと述べた。また、人件費削減の必要性と削減案に関する資料(以下「B」)を提示し、給与制度の改正の必要性の根拠について、人事院勧告に倣う必要があること及び財政的に困難であることを繰り返し述べた。これに対し、本件労働組合は、給与制度の改正を行うには合理的な説明が必要である旨述べるとともに、本件法人の上記説明はいずれも理由にならないとし、人事院勧告に準拠する法的根拠と労働条件の不利益変更の合理性の根拠についての説明を求めた。

②-8     3月10日   :本件法人は本件労働組合に対し、Bの概要について口頭で説明を行った。また、本件法人は、人事院勧告に準拠する根拠として、そうした方針を従来採り続けてきたためと繰り返し説明した。これに対し、本件労働組合は、Bが予算ベースで記載されており実績ベースで記載されていないことを指摘し、さらに詳細なデータを提供するよう要求した。

②-9      4月1日   :本件法人が給与の引き下げ等を実施した。

2.本件労働組合による不当労働行為救済申し立て

③平成27年6月22日:本件労働組合は山形県労働委員会に対し、上記1に関する団体交渉における本件法人の対応が、労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するとして、救済命令の申立てを行った。

④平成31年1月15日 :山形県労働委員会は本件法人に対し、本件法人の、昇給抑制や賃金引下げの程度に関する交渉態度が、通常必要と考えられる財務諸表や将来予測資料等の資料を提示せず、また、人事院勧告に準拠する根拠についても、本件法人の従来の方針に従っていることのみに求めるなど、必要な資料の提出や十分な説明をしない不誠実なものであり、不当労働行為に該当するとして、誠実な交渉をすることを内容とする救済命令を発出した。

3.本件法人による取消訴訟の提起

⑤平成31年2月15日:本件法人は山形県に対し、上記④の救済命令の取消しを求めて取消訴訟を提起した(本件労働組合は、被告側補助参加人として訴訟参加した。)。本件法人は、昇給抑制や賃金引下げ等が既に実施されていることから、上記④の救済命令は、本件法人に不可能を強いるものであると主張した。

⑥-1       2月25日:本件労働組合は本件法人に対し、上記④の救済命令に従い、誠実な交渉をすることを求め、団体交渉を申し入れた。

⑥-2   2月25日:本件法人は本件労働組合に対し、上記⑤の取消訴訟を提起したことを理由に、団体交渉を拒否した。

⑦令和2年5月26日(第一審):本件法人の請求を認容し、上記④の救済命令を取消した。

⑧令和3年3月23日(第二審):第一審を維持。

⑨令和4年3月18日(最高裁):原判決を破棄。審理を尽くさせるため、差戻し。

Q2-33-2.下級審判決の内容はどのようなものですか。

第一審及び第二審の判旨は次のとおりです(下線は作成者)。

1.第一審

≪判旨≫

「本件においては,…既に本件各交渉事項に係る団体交渉は終了しており,本件各交渉事項に係る規定の改正は,いずれも施行されている。このような状況のもとで,補助参加人は,団体交渉の過程における原告の態度が不誠実であるとして救済を求めている…。しかしながら,団体交渉とは,労働者の待遇又は労使関係上のルールについて合意を達成することを主たる目的として交渉を行うことであるにもかかわらず,上記のとおり,本件各交渉事項に係る規定の改正はいずれも既に施行されており,これについて改めて合意を達成するなどということはあり得ないから,本件各交渉事項について団体交渉に応ずるよう原告に命ずることは,原告に不可能を強いるものというほかない。そうすると,処分行政庁による本件救済命令は,その命令の内容において,処分行政庁の裁量権の範囲を超えるものといえる。…したがって,本件救済命令は違法であって取消しを免れない。」

2.第二審

≪判旨≫

「…本件各交渉事項に係る昇給抑制及び賃金引下げは,平成27年1月1日又は同年4月1日に既に実施済みであるところ,それだけであれば,本件各交渉事項について更に団体交渉を進め,そこで成立した合意に従って,改めて規程改正をすれば足りるから,規程改正により昇給抑制及び賃金引下げが実施済みであるからといって,法律上,本件各交渉事項について改めて団体交渉をして一定の合意を成立させることが不可能になるものではない。」「しかし,本件各交渉事項については,新たな合意をする場合,それを実現するには被控訴人の予算の裏付けが必要であるところ,本件救済命令が発された平成31年1月15日においては,本件各交渉事項に係る昇給抑制又は賃金引下げの実行から4年前後を経過し,その間,平成29年度までの会計年度が終了するとともに,給与の性質上,関係職員全員について上記昇給抑制及び賃金引下げを踏まえた法律関係が積み重ねられてきたということができる。そして,…被控訴人においては,以前から,職員の給与水準の改定を巡り補助参加人との厳しい折衝を余儀なくされていた事実が認められる。以上のような諸事情からすると、本件各交渉事項に係る昇給抑制又は賃金引下げの実施から4年前後を経過した平成31年1月15日の時点において,本件各交渉事項について被控訴人と補助参加人とが改めて団体交渉をしても,補助参加人にとって有意な合意を成立させることは事実上不可能であったと推認することができ,このような推認を覆すに足りる証拠はない。」「そうすると,…本件救済命令が,平成31年1月15日の時点において,被控訴人に対し,本件各交渉事項について,補助参加人と更なる団体交渉をするように命じたことは,労働委員会規則33条1項6号の趣旨にも照らし,裁量権の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。」「また,正常な集団的労使秩序の回復は不当労働行為救済制度の目的とするところではあるが,団体交渉が最終的には労使間の一定の合意の成立を目的とするものであることからすると,使用者に対し,事実上,労働組合にとって有意な合意の成立が不可能となった事項に関して労働組合との団体交渉を命ずることは,目的を達成する可能性がない団体交渉を強いるもので行き過ぎといわざるを得ない…。」

Q2-33-3.最高裁判決の内容はどのようなものですか。

最高裁判決の判旨は次のとおりです(下線は作成者)。

≪判旨≫

「労働委員会は,救済命令を発するに当たり,不当労働行為によって発生した侵害状態を除去,是正し,正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復,確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨,目的に由来する限界を逸脱することは許されないが,その内容の決定について広い裁量権を有するのであり,救済命令の内容の適法性が争われる場合,裁判所は,労働委員会の上記裁量権を尊重し,その行使が上記の趣旨,目的に照らして是認される範囲を超え,又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り,当該命令を違法とすべきではない…。」「労働組合法7条2号は,使用者がその雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁止するところ,使用者は,必要に応じてその主張の論拠を説明し,その裏付けとなる資料を提示するなどして,誠実に団体交渉に応ずべき義務(以下「誠実交渉義務」という。)を負い,この義務に違反することは,同号の不当労働行為に該当するものと解される。そして,使用者が誠実交渉義務に違反した場合,労働者は,当該団体交渉に関し,使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができず,誠実な交渉を通じた労働条件等の獲得の機会を失い,正常な集団的労使関係秩序が害されることとなるが,その後使用者が誠実に団体交渉に応ずるに至れば,このような侵害状態が除去,是正され得るものといえる。そうすると,使用者が誠実交渉義務に違反している場合に,これに対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令(以下「誠実交渉命令」という。)を発することは,一般に,労働委員会の裁量権の行使として,救済命令制度の趣旨,目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものではないというべきである。」「…団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないと認められる場合には,誠実交渉命令を発しても,労働組合が労働条件等の獲得の機会を現実に回復することは期待できないものともいえる。しかしながら,このような場合であっても,使用者が労働組合に対する誠実交渉義務を尽くしていないときは,その後誠実に団体交渉に応ずるに至れば,労働組合は当該団体交渉に関して使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができるようになるとともに,組合活動一般についても労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから,誠実交渉命令を発することは,不当労働行為によって発生した侵害状態を除去,是正し,正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復,確保を図ることに資するものというべきである。そうすると,合意の成立する見込みがないことをもって,誠実交渉命令を発することが直ちに救済命令制度の本来の趣旨,目的に由来する限界を逸脱するということはできない。」「また,上記のような場合であっても,使用者が誠実に団体交渉に応ずること自体は可能であることが明らかであるから,誠実交渉命令が事実上又は法律上実現可能性のない事項を命ずるものであるとはいえないし,上記のような侵害状態がある以上,救済の必要性がないということもできない。」「以上によれば,使用者が誠実交渉義務に違反する不当労働行為をした場合には,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,誠実交渉命令を発することができると解するのが相当である。」「本件各交渉事項に係る団体交渉における被上告人の対応が誠実交渉義務に違反するものとして不当労働行為に該当するか否か等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す…。」

Q2-33-4.第一審・二審と最高裁の判断が分かれたポイントは何ですか。

第一審及び第二審は、団体交渉の目的は一定の合意を達成することであるとした上で、本件では法人と労働組合との間で労働条件に関する合意を達成することは最早不可能であるから、法人に誠実交渉を要求する救済命令は不可能を強いるものであり、裁量を逸脱し、違法であるとしました。この立場からは、合意の達成如何によって、労働委員会の救済命令に関する裁量の範囲が大きく左右されることになります。

これに対し、最高裁は、団体交渉の目的には触れず、たとえ一定の合意に至ることが不可能であっても、法人が誠実交渉義務に違反している場合に、救済命令によりこの義務違反状態が是正され、法人が誠実交渉をするに至ったときは、法人・労働組合間のコミュニケーションの正常化が図られるため、正常な集団的労使関係秩序の回復を目的とする救済命令制度の趣旨・目的からすれば、誠実交渉命令は裁量の逸脱にはならないとしました。その上で、法人に誠実交渉義務違反があるかどうかを再度審理させるため、原判決を破棄し、差戻しました。

これをまとめたものが以下の表になります。

 団体交渉の目的救済制度の趣旨・目的結論
第一審労働者の待遇又は労使関係上のルールについて合意を達成することを主たる目的とする明言していない救済命令は違法
第二審最終的には労使間の一定の合意の成立を目的とする正常な集団的労使秩序の回復救済命令は違法
最高裁明言していない不当労働行為によって発生した侵害状態を除去,是正し,正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復,確保を図る審理不尽破棄差戻

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弁護士田村裕一郎